ロマン上巻
都会での仕事や生活に幻滅し、画家として第二の人生を歩むため田舎に舞い戻る主人公ロマン。金持ちの叔父と叔母と暮らす日々。神父や医者、教授に教師、地元の村民とのほのぼのとした交流。ロシアの豊かな自然と素朴な生活の描写。獣との死闘、一目惚れ、熱愛、盛大な結婚式.....
と、ここまでは所謂安心して読める古典的な話なのだが、祝いにもらった斧と木鈴の音に啓示を受けた後、終盤一転して津山事件のような展開になり、黒ミサ、カニバリズム、スカトロジー、と続く。三人称の淡々とした語り口で延々と同じ単語が繰り返された後、オチらしいオチもなく終わるといういろんな意味で問題作。啓示直後ストーリーは断ち切られ、最初に斧をくらうのは読者の頭なのだ。
安酒場のドストエフスキーと呼ばれているパルプノワール作家、ジム・トンプスンも自滅や破滅的な結末をむかえる話が多いのだけど、サヴェッジ・ナイトでは結末がロマンと似た部分があり、また読み直してみると面白いかもしれない。
カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ作 樫の森の修道院